大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成5年(ワ)4861号 判決

原告(反訴被告・以下「原告」という。)

株式会社パシフィック・インベストメンツ・リミテッド

右代表者代表取締役

石田一博

右訴訟代理人弁護士

田中紘三

被告(反訴原告・以下「被告」という。)

明裕不動産株式会社

右代表者代表取締役

蔡明裕

右訴訟代理人弁護士

笹原信輔

斎藤一好

斎藤誠

桑原育朗

香村博正

中由規子

主文

一  原告と被告との間で、原告が、別紙物件目録一記載の建物に関し、建物の区分所有等に関する法律に定める管理者たる地位にあることを確認する。

二  被告の反訴請求を棄却する。

三  訴訟費用は本訴反訴を通じて被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(本訴請求について)

一  請求の趣旨

1 主文一項と同旨

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴請求について)

一  請求の趣旨

1 原告と被告との間で、被告が、別紙物件目録一記載の建物に関し、建物の区分所有等に関する法律に定める管理者たる地位にあることを確認する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 主文二項と同旨

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二  当事者の主張

(本訴請求について)

一  本訴請求原因

1 原告及び被告は、別紙物件目録一記載の建物(以下「本件建物」という。)の区分所有者である。

2 平成三年七月二四日、本件建物の区分所有者集会が開催され(以下「本件集会」という。)、区分所有者及び議決権の各過半数の賛成により、原告及び株式会社植村組(以下「植村組」という。)が、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)上の管理者に選任された。

当時の本件建物の区分所有者は原、被告を含め合計一二名(共有者は一名として計算)であり、議決権数は、原告が三〇六〇、被告が三八八八、訴外亀倉雄策(以下「訴外亀倉」という。)が二四八、塩谷八千代ほか八名が合計二八〇四である(議決権総数は一〇〇〇〇である。なお、被告の右議決権数は、他の区分所有者の議決権数の小数点以下を切り捨てた分をすべて加算したものである。)。

3 しかるに、被告は、原告が右管理者の地位にあることを争っている。

4 よって、原告は、被告に対し、原告が右管理者の地位にあることの確認を求める。

二  本訴請求原因に対する認否

1 本訴請求原因1は認める。

2 同2のうち、原告及び植村組が、本件集会において、区分所有者及び議決権の各過半数の賛成により区分所有法上の管理者に選任されたことは不知、原告と被告の議決権数は否認する。

3 同3は認める。

三  被告の主張

1 被告は、昭和四四年四月本件建物を建築し、専有部分を順次分譲したが、その都度、購入者との間で、共有部分はすべて被告が管理することなどを内容とする管理契約を締結し、その旨の契約書が作成された。右管理契約は、被告と個々の区分所有者との管理委託契約であると同時に、各区分所有者において、被告を区分所有法上の管理者とする旨を書面で合意したものであり、区分所有者全員の書面による合意があったときは、集会の決議があったものとみなされるから、これにより、被告は、区分所有法上の管理者に選任されたことになる。

したがって、本件集会は、管理者である被告の招集によらないで開催された点において、手続上の違法があり、同集会における管理者選任の決議は無効である。

2 右管理契約書は、区分所有者全員の書面による合意により設定された規約としての性質を有するものであるところ、右規約たる管理契約書には、本件建物の共有部分はすべて被告が管理し、各区分所有者は本件建物の一区画を専有する期間中、被告に、管理並びに環境の維持に必要な処理を委託することなどが定められており、したがって、被告以外の者を管理者に選任することは右規約の変更にほかならないから、区分所有法三一条一項により、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議並びに規約の変更により特別に影響を及ぼされる被告の承諾を得る必要がある。しかるに、本件においては右の要件をいずれも欠いており、本件集会における管理者選任の決議は、その効力を生じないというべきである。

3 原告は、三〇六〇の議決権を有していると主張しているが、原告の右議決権は、次のとおり被告に対抗することができないものであるから、結局、本件集会における管理者選任の決議は、議決権の過半数の賛成によるものでないことになり、その効力を生じないというべきである(また、右決議については、議決権行使を委任していない訴外亀倉の議決権を、原告が代理行使した違法がある。)。

すなわち、被告は、原告(当時の代表取締役は、ロバート・シー・エフ・ホー)に本件建物の区分所有権を分譲した際、原告との間で、「区分所有権を第三者に譲渡しようとするときは、予め被告に通知するものとし、被告は第三者に優先して譲受けの申込をすることができる」旨の合意をした。しかるに、右ロバート・シー・エフ・ホーは、被告に何らの通知をすることなく、原告の株式を現在の代表取締役である石田一博に譲渡して、いわゆる会社ごとの売買を行ったものであり、このことは、物件そのものの処分ではないが、実質的には、物件処分による所有者の交替であって、前記合意を潜脱する脱法行為であり、被告に対して効力を生じないというべきであるから、原告の議決権は被告に対抗することができないものである。

四  被告の主張に対する認否及び反論

1 被告の主張1は否認する。

被告主張の管理契約は、管理業務を請け負わせる管理委託契約であり、区分所有法上の管理者を選任することを内容とするものではないし、また、すべての区分所有者が管理契約を締結していたものでもない。

2 同2は争う。

3 同3は争う。

原告に役員や株主の変更があっても、原告が被告に対し通知する義務を負うことはないし、被告に原告の区分所有建物の買取請求権が生ずるいわれはないから、原告の議決権を争う被告の主張は理由がない。

(反訴請求について)

一  反訴請求原因

1 原告及び被告は、本件建物の区分所有者である。

2 被告は、昭和四四年四月本件建物を建築し、専有部分を順次分譲したが、その都度、購入者との間で、共有部分はすべて被告が管理することなどを内容とする管理契約を締結し、その旨の契約書が作成された。右管理契約は、被告と個々の区分所有者との管理委託契約であると同時に、各区分所有者において、被告を区分所有法上の管理者とする旨を書面で合意したものであって、区分所有者全員の書面による合意があったときは、集会の決議があったものとみなされるから、これにより、被告は区分所有法上の管理者に選任されたということができるし、あるいは、右管理契約書は区分所有者全員の書面による合意により設定された規約としての性質を有するから、被告は、右規約によって区分所有法上の管理者と定められたものである。

3 しかるに、原告は、被告が右管理者の地位にあることを争っている。

4 よって、被告は、原告に対し、被告が右管理者の地位にあることの確認を求める。

二  反訴請求原因に対する認否

1 反訴請求原因1は認める。

2 同2は争う。

被告主張の管理契約は、管理業務を請け負わせる管理委託契約であり、区分所有法上の管理者を選任することを内容とするものではないし、また、すべての区分所有者が管理契約を締結していたものでもない。

3 同3は認める。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一本訴請求について

1  請求原因1及び3は当事者間に争いがなく、本件集会当時、本件建物の区分所有者が原、被告を含め合計一二名(共有者は一名として計算)であり、訴外亀倉の議決権数が二四八、塩谷八千代ほか八名の議決権数の合計が二八〇四であることについては、被告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

右事実と〈書証番号略〉、証人板垣卓の証言、被告代表者本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)によれば、次の事実が認められる。

(一)  被告は、昭和四四年四月本件建物を建築して、その区分所有権を順次分譲販売するとともに、一部の専有部分は分譲せずに所有したまま他に賃貸していたが、被告は、購入者や使用者との間で、本件建物及び敷地の共有部分に関し、管理並びに環境の維持に必要な処理を受託する旨の管理契約を締結して、本件建物の管理業務を行い、適宜定めた管理費等を徴収していた。

(二)  右のように、分譲当初からずっと、被告が本件建物の管理業務を行ってきたが、平成三年になって、被告が一方的に管理費を値上げしたことなどから、同年六月頃、区分所有者の間で、区分所有者集会を開催しようとの機運が盛り上がり(これまで、区分所有者集会が開かれたことはなかった。)、一〇名の区分所有者が区分所有者の一人である田中紘三弁護士を代理人と定めて区分所有者集会の招集手続を委任し、区分所有法三四条五項に基づき、被告を除く区分所有者全員が招集者となって(ただし、訴外亀倉は後に招集の意思を取り消したもののようである。)、同年七月九日付け書面により、各区分所有者に対し、管理者の選任等を議題とする区分所有者集会の招集の通知がされた。

(三)  平成三年七月二四日、本件集会が開催されたが、同集会には、区分所有者一二名中、訴外亀倉を除く全員が出席し(ただし、塩谷八千代、林宗毅は委任状による出席)、区分所有法上の管理者の選任の件が諮られたところ、出席者中、被告を除く全員の賛成により、原告及び植村組を、各自単独で権限を行使できる管理者として選任することが決議され、原告及び植村組はその場でその就任を承諾した。ところで、専有部分の床面積の割合に応じて計算すると、原告の議決権数は三〇六〇(小数点以下を切捨)、被告の議決権数は3880.72となるが、原告が主張するように、被告以外の区分所有者の議決権数の小数点以下を切り捨てた分を被告の議決権数に加算すると、被告の議決権数は三八八八であり、したがって、当日の出席者(委任状出席者を含む。)全員の議決権数は合計九七五二であるから、右管理者の選任決議は、被告の議決権数三八八八を除く合計五八六四の賛成(議決権総数は一万であるから、その過半数を超える賛成である。)と区分所有者総数一二名中一〇名の賛成により可決されたものである。

右のとおり認められ、〈証拠判断略〉、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  被告は、被告が本件建物の区分所有法上の管理者であり、区分所有者集会の招集権を有するから、本件集会は管理者の招集によらない手続上の違法がある旨主張する(被告の主張1)。

被告が、区分所有者らと個別的に締結された管理契約に基づいて、本件建物の管理業務を担当していたことは、前記認定のとおりであるが、被告は、右管理契約の締結によって、各区分所有者において被告を区分所有法上の管理者と定める合意が成立したというのである。しかし、管理契約書〈書証番号略〉によると、区分所有者らが被告に対し、「本件住宅及び敷地の共有部分に関し、管理並びに環境の維持に必要な処理を委託」し、被告の行う管理業務として、来訪者の受付・案内、共用部分の清掃・保全・附属設備の運転・保守等、住宅内外の保安管理、管理費等の金銭処理、共用部分に対する損害保険契約に関する事項などの業務を掲げ、被告は「善良なる管理者として、その業務を行う」と定められているが、被告を区分所有法上の管理者に選任するとの趣旨を窺わせる条項は見当たらないし、また、被告が、区分所有法上の管理者に義務づけられた毎年一回の定期的事務報告をしていたとの形跡も窺われないのであって、右管理契約が、被告を区分所有法上の管理者と定める趣旨を含むものとは到底解することができない(なお、〈書証番号略〉によれば、被告自身も、原告を債権者、被告を債務者とする平成三年(モ)第一六二四七号管理妨害禁止仮処分保全異議申立事件において、本件集会以前には、区分所有法上の管理者がいなかったことを認めていた。)。

のみならず、被告は、管理者の選任につき区分所有者全員の書面による合意があったと主張するが、本件全証拠を検討しても、区分所有者全員との間で、もれなく管理契約書が作成されたか、必ずしも定かではなく、全員の書面による合意があったと認めるには十分でないから、この点でも、管理者の選任について集会の決議があったとみなすことはできない。

以上のとおり、被告は、区分所有者らとの個別的な管理委託契約に基づき、受託者として本件建物の管理業務に従事していただけで、区分所有法上の管理者ではないから、本件集会の招集手続の違法をいう被告の主張は、その前提を欠き、失当である。

3  また、被告は、右管理契約書をもって区分所有者全員の書面による合意により設定された規約であるとし、原告を管理者に選任することは右規約の変更に当たる旨主張する(被告の主張2)。

しかし、右管理契約書は、前示のとおり、管理業務の委託、受託関係を主たる内容とするものであって、建物、敷地、付属施設に関する管理、使用について区分所有者相互間で取り決められたものとはいえないから、これをもって規約の設定とみることはできないというべきであるし、そもそも、右管理契約書には、被告を区分所有法上の管理者と定める条項が存在していないのであって、被告の右主張は失当というほかない。

4  さらに、被告は、原告の議決権は被告に対抗することができない旨主張する(被告の主張3)。

〈書証番号略〉によれば、原、被告間の売買契約において、被告主張のような合意がされたことは認められるが、しかし、たとえ株式会社である原告の株主や役員の全部が変更されたとしても、そのことは、原告が被告から購入した本件建物の区分所有権を第三者に譲渡したことにならないことはいうまでもないし、右合意が本来予定した区分所有権の実質的な譲渡に当たるとすることもできないから、原告が右合意に違反したということはなく、右合意違反を前提とする被告の主張は、その前提を欠き、失当である。

なお、前記認定のとおり、本件集会において訴外亀倉の議決権が代理行使された事実は存在しないから、この点に関する被告の右主張も失当である。

5  以上のとおり、原告は、本件集会において区分所有法上の管理者に選任され、就任したものであるから、右管理者たる地位にあることの確認を求める本訴請求は理由がある。

二反訴請求について

1  反訴請求原因1及び3は当事者間に争いがないが、既に本訴請求について判断したとおり、被告が区分所有者の書面による合意によって区分所有法上の管理者に選任されたこと、あるいは、被告を管理者と定める規約が設定されたことは、いずれも認めることができないから、被告の反訴請求は理由がない。

2 ところで、被告は、第一一回口頭弁論期日において、反訴請求として従前求めていた管理者たる地位の確認請求に追加して、新たに別紙物件目録二記載の土地及び同目録三記載の建物における被告の駐車場営業及び貸倉庫営業に対する妨害禁止と二〇一七万一七五〇円の損害賠償(若しくは不当利得返還)を求める旨の訴えの変更を申し立て(その請求の趣旨は、別紙「追加的請求の趣旨」記載のとおりである。以下「追加的請求」という。)、これに対し、原告は、右訴えの変更に異議がある旨述べている。

そこで検討するに、被告の従前の請求は、被告が区分所有法上の管理者たる地位にあるかどうか、すなわち、管理者に選任されたか否かが審理の対象であるのに対し、右追加的請求は、要するに、右土地建物が被告の専有部分であり、共用部分ではないのに、原告が管理権を主張して右土地建物における被告の駐車場及び貸倉庫営業を妨害しているから、所有権ないし営業権に基づき右妨害行為の差止めと不法行為に基づく損害賠償(又は不当利得返還請求)を求めるというものであって、審理の対象となるのは、右土地建物が被告の専有部分であるか否か、妨害行為の存否等である。そうすると、従前の請求と追加的請求の間には、事実的にも法的にも関連性をみいだすことができず、請求の基礎を異にすると解するのが相当である(なお、被告は、第一二回口頭弁論期日において、前記訴えの変更の申立てを反訴の提起に改める旨申し立てているが、被告は、既に管理者たる地位確認の反訴を提起しているのであり、さらに別の反訴を提起するという趣旨は定かでないが、仮に反訴の要件に従って被告の申立ての許否を判断すべきであるとしても、被告の追加的請求は、本訴の請求又は防禦の方法との牽連性を欠いていることは明らかである。)

したがって、被告の訴えの変更は、請求の基礎に変更がないとはいえないから、これを許さないこととする。

三以上のとおりであって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、被告の反訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官佐藤久夫 裁判官山口博 裁判官金光秀明)

別紙物件目録〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例